都市部で急増するウーバーイーツ配達員、自転車事故のリスクも年々上昇中

「すきま時間に稼げる」「初期費用が少なく始めやすい」といった理由から、ウーバーイーツの配達員として働く人が年々増えています。自転車一台でできる気軽な副業としても注目され、学生や主婦、ダブルワーカーまで、幅広い層に利用されています。

しかし、都市部の交通量の多いエリアや慣れない住宅街での配達は、想像以上にリスクを伴います。歩行者との接触、車との接触、転倒などの事故が発生した場合、その責任は基本的に配達員個人が負うことになります。しかも、ウーバーイーツ配達員は「会社員」ではなく「個人事業主(業務委託)」という立場。会社員に適用される労災保険や通勤災害制度は適用外です。

では、ウーバーイーツは配達員にどんな補償を提供しているのでしょうか?それで本当に安心なのでしょうか?本記事では、ウーバーイーツ配達員に自動で提供されている補償制度の内容とその限界、さらに事故に備えるために必要な保険や対策を詳しく解説していきます。

1ウーバーイーツ配達員に標準提供される補償制度

ウーバーイーツの配達員は「個人事業主」として働いているため、一般的な労災保険の対象にはなりません。
しかし、万が一の事故に備えて、ウーバーイーツ側で自動付帯される補償制度が用意されています。
まずはその内容から確認しておきましょう。

1-1 補償制度の概要(賠償責任+傷害補償)

ウーバーイーツでは、配達員が万が一の事故に備えられるように三井住友海上火災保険と包括的な保険契約を結んでおり、特別な申請をせずとも自動で補償を受けられる制度を用意しています。

主に補償されるのは、以下の2つの分野です。

  • 対人・対物賠償責任補償(上限 各1億円/自己負担なし)
    配達中に歩行者にぶつかってケガをさせたり、駐車中の車や建物などにぶつかって損害を与えてしまった場合に、賠償金をカバーしてくれる制度です。補償額は高額で、1億円まで補償され、自己負担金も不要です。
  • 配達中の傷害補償(自分自身への補償)
    配達中に転倒してケガをした、段差につまずいて骨折した、というような自損事故でも、一定の条件を満たせば補償が受けられます。補償内容は以下の通りです:
    • 入院見舞金:日額7,500円(最大50日=37万5,000円)
    • 医療見舞金:最大50万円
    • 死亡一時金:最大1,000万円

このように、配達中の事故に対してはかなり手厚い補償内容となっており、多くの配達員にとって安心材料になっています。

1-2 補償対象の期間と範囲

ただし、注意しなければならないのは、この補償が「いつ」「どこまで」適用されるのか、という点です。補償の対象となるのは、「配達業務中」に限定されており、その定義も明確に決まっています。

補償対象の時間帯

  • アプリで配達リクエストを受けた「配達開始」から、注文品の受け渡しが完了するまでの間
  • 配達完了後15分以内
  • キャンセルが発生した場合でも、そのキャンセル後15分以内

この時間帯以外、たとえば次のようなケースは補償対象外となります。

補償されないケースの例

  • アプリを開いて待機している最中の事故(配達依頼を受けていない状態)
  • レストランへの移動中(配達未受注の移動)
  • 帰宅途中やプライベートな移動
  • 自転車の整備・点検中のケガ

実際に、ウーバーイーツ配達員の事故のうち約15%は、この補償の適用外の時間帯に発生しているというデータもあります【出典:三井住友海上火災保険「UberEats補償制度ガイド」】。

つまり、「補償があるから安心」と思っていると、意外な場面で補償を受けられない可能性があるのです。とくに都市部では、信号の多さや車通りの多さ、雨天による滑りやすさなど、事故のリスクが高まるタイミングも多く、自己防衛の意識は欠かせません。

2. 急増中!配達員による事故と実際の事例

コロナ禍以降、ウーバーイーツの利用拡大とともに、配達員の数も急増しました。しかしその一方で、交通ルールを軽視した走行や無理な配達スケジュールによる焦りから、重大な事故が相次いで発生しているのも事実です。ここでは実際に起きた事故例や、その後の補償・対応の問題点を紹介します。

2-1 高額賠償事例│自転車で歩行者轢過 → 業務上過失致死

2021年5月、東京都渋谷区で発生した事故では、ウーバーイーツの配達員が自転車で歩行者をはね、死亡させるという痛ましい事件が起きました。加害者となった配達員は、雨天時の視界不良の中、歩道と車道の境目付近で自転車を走行し、通行中の60代女性に衝突。女性は頭部を強く打ち、数日後に死亡しました。

この事故では「業務上過失致死」の容疑で書類送検され、刑事責任も問われることになりました。賠償金も数千万円規模になると見られ、実際に被害者側との示談が成立しないまま、裁判に発展する可能性が高い事例でした。

出典:アトム法律事務所「【解説】Uber Eats(ウーバーイーツ)配達員の事故と補償・保険制度」

このように、配達員としての「業務中の事故」であっても、その運転や行動によっては刑事・民事の両面で大きな責任を負うリスクがあります。

2-2 示談交渉トラブルの実例

もう一つ多いのが、示談交渉がうまく進まないトラブルです。

たとえば2023年、ある配達員が自転車で高齢者と接触事故を起こした事例では、被害者側が軽傷で済んだものの、精神的ショックを訴え、後遺障害を主張。配達員には任意保険の加入がなく、示談交渉を代行してくれる「示談交渉特約」も未加入だったため、当事者間での話し合いに

しかし、交渉が難航し、被害者側が「民事訴訟を起こす準備を進めている」と明言する事態に発展しました。

ウーバーの標準補償制度には「示談交渉サービス」は付いておらず、保険会社が被害者との間に立ってくれることもありません。このため、任意保険に加入していない配達員は、事故後の精神的・実務的負担も非常に大きくなりがちです。

2-3 ケガ・後遺障害での被害配達員の苦悩

事故は、配達員自身が「被害者」となるケースもあります。

とある元配達員の体験談では、信号無視の車と接触して足の骨折と靭帯損傷の大ケガを負い、2か月間入院を余儀なくされました。しかしウーバーの補償制度から支払われたのは、見舞金としての入院日額7,500円×50日の上限=37万5,000円のみ。それだけでは生活費も家賃もまかないきれず、休業補償は一切なしなため、収入ゼロで貯金を切り崩す生活を送ることになりました。

さらに、「個人事業主」である配達員には健康保険の傷病手当金も適用されず、保険証を使った治療費の自己負担も地味に重くのしかかります。後遺症が残れば、今後の仕事への影響も避けられず、配達員にとって事故は“人生が変わるレベル”のインパクトを持ちます。

こうした事例を見ると、ウーバーが提供する補償制度は“最低限のセーフティネット”でしかなく、重大事故や生活費の補償には不十分であることがわかります。次章では、どのような保険を自分で追加すれば安心なのかを詳しく見ていきましょう。

3. 補償が不十分なワケ

ウーバーイーツ配達員向けに提供されている標準補償制度は、たしかに最低限の安心材料にはなります。ですが、実際に事故が起きたとき、「想像以上に補償されなかった」という声も少なくありません。ここでは、補償制度のカバーしきれない盲点とその理由について解説します。

3‑1 配達外・帰宅中事故の“無保険状態”

まず最も大きな落とし穴が、「配達外の時間帯は補償の対象外」という点です。

ウーバーイーツの補償制度では、「配達リクエストを受けた後から、商品を届け終えるまで(またはキャンセル完了から15分以内)」の時間に限定して保険が適用されます。つまり、次のようなタイミングでの事故は一切補償されません。

  • 配達アプリを起動しているだけの待機時間
  • 拠点から配達エリアに向かう移動中
  • 配達を終えて自宅へ帰る途中

実際に自転車事故の15〜20%はこの「配達外時間」に発生しているとも言われており、多くの配達員が「まさかこの時間は補償外だったとは」と事故後に気づくケースが後を絶ちません。

3‑2 示談交渉が“自助努力”

万が一、自分が加害者となって歩行者や車両と接触してしまった場合、次に問題になるのが「示談交渉の負担」です。

ウーバーイーツの賠償責任保険では、最大1億円までの対人・対物補償が用意されていますが、示談交渉を保険会社が代行する仕組みにはなっていません。つまり、

  • 被害者との連絡
  • 過失割合の交渉
  • 賠償金額の話し合い

といったやり取りを、配達員自身が直接行わなければならないのです。

被害者が高齢者だったり、主張が強かったりすれば精神的負担は非常に重く、「相手が弁護士を立ててきたが、こちらは無力で押し切られそう」といったトラブルも現実に発生しています。

自転車保険や個人賠償責任保険の「示談交渉特約」付きプランに別途加入しておくことが、精神的な安心感につながるでしょう。

3‑3 傷害補償の限界

一方、自分がケガを負ってしまった場合の補償についても、ウーバーの標準制度は“お見舞い金”レベルにとどまるのが現状です。

  • 入院見舞金:7,500円 × 最大50日(=上限37万5,000円)
  • 医療見舞金:最大50万円
  • 死亡・後遺障害時の一時金:最大1,000万円

これだけ見ると十分な額に思えますが、通院や自宅療養時の補償はゼロであり、仕事を休まざるを得ない場合の「休業補償」も一切なしです。

特に副業ではなくウーバーを主たる収入源としている人にとっては、収入ゼロの空白期間が突如訪れることになり、生活に直撃するリスクがあります。

さらに、病院への交通費や入院中の差額ベッド代、家族の付き添い費用など、保険ではカバーされない“雑費”も意外にかさむため、これらも自己負担になります。

労災保険の加入でカバーできるケースも

実はフードデリバリー配達員でも、「一人親方労災保険」や「特別加入制度」に申し込むことで、労災保険に加入することが可能です。これにより、通勤時や配達準備中なども補償の対象に含まれる場合があります。

しかし、こちらも任意加入・自己負担であるため、知らないまま未加入でいる人も多いのが実情です。

このように、ウーバーの補償制度は「あるけれど十分ではない」ことがわかります。

4. 配達員が入るべき“業務対応”自転車保険とは?

ウーバーイーツ配達員が遭遇する可能性のあるトラブルは、「配達中」だけではありません。前章で述べたように、標準提供される保険だけでは補償が足りないのが現実です。

では、配達員が“自衛”のために備えるべき保険とはどのようなものでしょうか?ここでは、業務利用に対応した自転車保険の必要性と選び方について詳しく解説します。

4‑1 業務利用に対応した自転車保険のニーズ

自転車保険といえば、一般的には通勤・通学や日常生活での利用を想定したものが多くあります。しかし、ウーバーイーツなどの業務で使う場合は“業務使用特約”がないと補償の対象外になるケースがほとんどです。

たとえば、以下のような場面では補償対象外となる可能性があります。

  • アプリを起動し、配達の待機中に事故
  • 配達を終えて帰宅途中の事故
  • 次の配達リクエストに向かう途中の接触事故

ウーバーイーツ標準の補償制度は、配達リクエスト受付から配達完了後15分以内という“配達中”のみが対象であり、それ以外の「空白時間」のリスクをカバーできていません。

この空白部分を補うために、“業務対応型”の自転車保険や、業務利用が明記された個人賠償責任保険への加入が強く推奨されます。

4‑2 加入時のチェックポイント

では、数ある保険の中からどんなポイントに注目して選べばよいのでしょうか?以下は、ウーバー配達員にとって重要なチェック項目です。

チェックポイント
  • 配達外時間の補償有無
    「業務使用時でも補償されるか?」は、最も重要なポイントです。契約条件に“業務利用可”と明記されているか確認しましょう。
    中には「業務利用の場合は補償対象外」とする保険もあるため要注意です。
  • 対人・対物賠償の上限が無制限または高額
    近年の賠償額は年々高額化しており、歩行者との接触で1億円超の賠償が命じられた判例も存在します(例:神戸市の男子中学生の事例)。
    1億円以上、できれば無制限の補償を備えたプランを選びましょう。
  • 示談交渉サービス付きかどうか
    万が一、自分が加害者となったときに「示談交渉」を代行してもらえるかも重要なポイントです。
    弁護士費用や示談代行が付帯されている保険なら、事故後の精神的負担が大きく軽減されます。
  • 休業補償やロードサービスなどの追加特約
    事故でケガをしてしばらく働けない場合や、配達途中に自転車が故障したときに役立つのが休業補償ロードサービスです。
    保険によっては、これらのオプションをつけられることもあります。“働けない期間”の補償があるかを必ず確認しましょう。

なお、最近ではウーバー配達員やフードデリバリー向けに特化した業務利用OKの自転車保険を扱っている損保会社も存在します。中には「自転車・原付・徒歩配達すべてに対応」する設計のものもあるため、自分の稼働スタイルに合わせたプラン選びが可能です。

5.配達員に向けた保険選び&備えポイント

ウーバーイーツの配達員として活動する上で、事故への備えは「知識」と「行動」の両輪が不可欠です。

ここでは、保険の重ねがけによる安心体制の整え方や、実際に事故が起きたときの対応フロー、そして日頃から意識しておきたいリスク管理のポイントを紹介します。

5‑1 ウーバー補償・労災・民間保険の“三層防御”

ウーバーの標準補償制度は、配達中のみの補償という限界があるものの、対人・対物1億円の賠償責任保険+傷害補償が無償で自動付帯されている点で心強い制度です。

しかしこれだけでは不十分なため、以下の3段階での“保険の重ねがけ”を意識すると、安心感が格段に増します。

保険の種類カバーする範囲特徴
ウーバー標準補償配達中(リクエスト受付〜配達完了+15分)無償・自動付帯。配達時間限定
労災保険(特別加入)業務全体(出勤・帰宅含む)自営業者・フリーランス向け。公的保険
民間自転車保険(業務対応)待機・帰宅・私的利用まで含む空白時間や示談交渉をカバー。条件に注意

この“三層構え”を整えておけば、「いつ・どこで・どんな事故に遭っても補償されない」というリスクを大きく減らすことができます。

5‑2 事故に遭ったらまずどう動くか

いざというときに慌てないよう、事故後の行動フローを整理しておくことも大切です。以下は基本的な流れの一例です。

事故時の初動チャート

安全確保・救急/警察連絡
 → ケガ人がいるならまず119、物損・人身事故なら110へ通報。

ウーバーへの申告
 → ドライバーアプリから事故報告フォームを提出。
  事故日時・場所・状況・関係者情報を詳細に記載。

労災保険申請(加入者のみ)
 → 最寄りの労働基準監督署に連絡し、必要書類を準備。
  医療機関の診断書・事故証明などが必要です。

示談交渉や保険会社への連絡
 → 加害者となった場合、自ら対応が必要。
  民間保険の示談交渉特約があると非常に助かります。

5‑3 日頃の備えとセルフケア

事故の多くは「ヒヤリ・ハット」と呼ばれる小さな見落としから発生します。未然に防ぐためには、日常の点検と健康管理がカギです。

セルフケアチェックポイント
  • 自転車の定期メンテナンス
    タイヤの空気圧やブレーキの効き具合、ライトの点灯チェックはこまめに行いましょう。整備不良は事故原因になり、保険の補償対象外となる可能性もあります。
  • ヘルメットの着用必須
    ヘルメット非着用時の死亡率は2.2倍(国交省調査)とも言われており、頭部の保護は最優先です。
  • 安全運転・スピード抑制・夜間灯火
    急ぎすぎない、車道では車の死角に入らない、暗い場所ではライトを点けるなど、「見える・見られる」意識が重要です。
  • 健康管理と無理のないスケジュール
    長時間の連続配達や睡眠不足は、判断力の低下や反応遅れを引き起こします。
    体調がすぐれないときは稼働を控える勇気も必要です。

6. まとめ|配達と安全は両立できる

ウーバーイーツの配達員は、自由な働き方ができる一方で、「自転車を使って仕事をする」という高リスクな業務に日々さらされています。公式に提供される補償制度は、対人・対物それぞれ1億円の賠償責任補償や、見舞金付きの傷害補償など、確かに他社と比較しても手厚い部類です。

しかしその一方で、この補償制度にはいくつかの「見落とされがちな盲点」があります。

たとえば、事故の約15%は「配達中」ではなく、「配達待機中」や「帰宅途中」に発生しているとされており、こうした時間帯は補償対象外です。さらに、保険に示談交渉サービスや休業補償が含まれていないため、事故の相手方とのやり取りや、長期療養時の生活費をすべて自己負担で対応せざるを得ないリスクも。

こうした現実をふまえ、配達員に必要なのは「三重の備え」です。

  1. ウーバー公式の標準補償(無償で付帯)
     最低限の事故補償を確保。すべての配達員が対象。
  2. 労災保険(特別加入)
     個人事業主として加入可能。配達中だけでなく、通勤・待機・帰宅中もカバー。
  3. 業務対応の民間自転車保険
     補償空白の時間帯を埋め、示談交渉や休業補償までカバーできる設計。

これらを組み合わせることで、「もしも」のリスクに対して“経済的・精神的な余裕”を持って備えることができます。

また、保険に加えて日頃からのリスクマネジメント行動も欠かせません。整備された自転車で、ヘルメットを着用し、無理のないスケジュールで配達する。体調管理や天候のチェックも含めて、安全第一の意識を持つことが、事故を未然に防ぐ最大の対策です。

ウーバーイーツという新しい働き方が広がる中で、自らを守るのは「会社」ではなく「自分自身」です。配達員という自由な働き方を続けるためにも、補償の仕組みや保険の選び方を理解し、自分に合った備えを今日から始めてみてください。

配達と安全は、確実に両立できます。備えさえあれば、事故は“起きても怖くない”ものになります。

この記事を書いた人 Wrote this article

大山亜紀

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