スマートフォンの地図アプリを使って目的地へ向かう、そんな“スマホナビ”が当たり前になった今、自転車でも車でも、ナビを頼りに走る人が増えました。
しかし最近、こんな声をよく耳にします。「運転中にスマホを操作するのはダメだけど、ナビを見るのはセーフなの?」
「画面を見ているだけなら違反じゃないのでは?」「自転車なら手に持ってよくない?」
一方で、スマホが原因の交通トラブルや事故は年々増加。特に自転車利用では、歩行者との接触事故が高額賠償につながるケースもあります。
つまり今、「スマホを使いたい」と「安全に運転したい」この2つをどう両立させるかが大きな課題になっています。この記事では、自転車と車の両方について、
- どこまでがOKで、どこからが違法なのか
- ナビ利用はどのような扱いになるのか
- 事故時にどんな責任が生じるのか
をわかりやすく解説します。
法律上、自転車でスマホを“操作・注視”するのは違反
まず押さえておきたいのは、自転車の運転中にスマホを操作したり、画面を見続けたりする行為は、法律上「違反」になるということです。
道路交通法では、自転車は“軽車両”として扱われ、車と同じく「安全運転義務」 が課されています。つまり、運転中に前方から目を離してはいけないというルールです。
“操作”だけでなく“注視”もNG
多くの人が、「操作していなければ大丈夫」「手で触らなければセーフ」と誤解しがちですが、実はそれは間違いです。
スマホ画面に視線を落としている状態は、たった1〜2秒でも安全運転義務違反にあたります。
- 走行中にスマホで地図を確認する
- ハンドルに固定したスマホをじっと見続ける
- 手に持って画面を見る(片手運転も違反)
【グレーだけど危険な例】
- 信号が青に変わりそうなタイミングで画面を覗く
- 左折・右折の直前に地図を見る
“操作していない・触っていない”でも、走行中に画面を見ること=「注視」扱いになり、違反と判断される場合があります。
都道府県ごとに「禁止の条例」もある
さらに、多くの都道府県では、自転車の運転中のスマホ使用を禁止する条例も定められています。
東京都の例
「運転中に携帯電話やスマートフォンを使用してはならない」
→ 操作・注視とも禁止の対象。
つまり日本では、ナビを見ながら走る”行為は、基本的に違法・危険行為とされているということです。
停止中は確認してOK
ただし、信号待ちや完全に停止している状態での確認は違反ではありません。
とはいえ、前方の変化に気づきにくくなるため、過度な操作は禁物。周囲の安全を確認して、短時間で済ませることが大切です。
2.「ナビだけなら大丈夫?」―違反になる境界線
「操作していないならいいのでは?」「ナビを見る程度なら許される?」と思いがちですが、結論から言うと “走行中にスマホ画面へ視線を向ける行為そのもの”が違反になる可能性があります。 これは自転車でも車でも共通しています。
ただし、具体的な判断基準や罰則には違いがあるため、ここでは両者を比較しながら解説します。
自転車が違反になるケース
自転車は軽車両として「安全運転義務」に違反するかどうかが基準になります。走行中に画面を見れば前方注意を怠っている状態となり、操作していなくても“注視”として違反に該当することがあります。
スマホホルダーに固定していても、走行中に画面を見続ければアウトです。唯一許されるのは、信号待ちや停止中にルートを確認する場合。ただし、青信号に気づかないほど操作に集中してしまえば安全運転義務違反になる可能性もあります。
車が違反になるケース
車の運転中のスマホ使用は、道路交通法で明確に禁止されています。「保持して操作する」「保持していなくても画面を注視する」いずれも違反です。
ナビを見るだけでも、走行中に視線を離していれば“注視”と判断され罰則の対象になり得ます。反則点数や罰金も重く、場合によっては免許停止や取り消しにつながることもあります。
なお、完全停止中(ギアがPまたはN)は該当しませんが、信号待ちでの操作は事故につながりやすいため推奨されません。
「ナビ利用」はセーフかアウトか
両者に共通しているのは、“走行中にスマホの画面を見ていれば違反の可能性が高い”ということ。
つまり「ナビだからOK」という考えは誤りです。適法かどうかは「視線を前方から逸らしていないか」「操作していないか」で判断されます。スマホナビを利用する場合は、画面を注視しない工夫が不可欠となります。
3.安全にスマホナビを使うための工夫
スマホナビは便利ですが、その使い方を誤ると一瞬で“ながら運転”になります。大切なのは、「画面を見ないで使える状態を作ること」。自転車と車、それぞれに合った安全な使い方を紹介します。
自転車の場合│手元を見ない環境をつくる
自転車は片手運転になるだけで非常に危険です。また、歩行者との距離も近いため、ほんの数秒の注視が事故につながります。
- スマホをホルダーに固定する(手に持って使用するのは厳禁)
- 画面を注視せず、音声案内をメインにする
- ルート設定は必ず出発前に行う
- ルートを確認したい時は、歩道上ではなく安全な場所に停止してから
- 夜間は画面の光で注意をそらされやすいため、音声+周囲確認を徹底
自転車の場合、「走りながら画面をチラッと見る」は、すでに前方不注意とされても仕方ない行為です。
車の場合│ナビは“見続けない”ための工夫が必要
車は法律でスマホ使用が厳しく規制されており、走行中に画面を見るだけで違反になることがあります。事故の被害が大きくなるため、スマホナビの扱いは自転車以上に注意が必要です。
- スマホは必ずダッシュボードの固定ホルダーへ(手に持つのは即違反)
- 出発前に目的地設定を完了させる
- 音声ガイドを頼りにし、画面への依存を減らす
- 視線移動が少ない場所に固定する(なるべく視線の上下が少ない位置)
- 操作する場合は、安全な場所に停車し、サイドブレーキ+Pレンジにしてから
とくに“注視”は数秒でもアウト。スマホナビは「見る前提」で設置すると危険が増えるため、「音で案内を聞く前提」に変えることが最も安全です。
共通のポイントは「音声案内オン」
音声ガイドは、スマホナビを安全に使うための最大の味方です。次の曲がり角、車線変更のタイミング、右左折の距離感などを音で把握できるため、視線をそらす必要が大幅に減ります。
「見ないと不安」という人ほど、音声案内を使うと運転が安定します。
4.事故時の責任はどうなる?
スマホが関わる交通事故では、「前方不注意」や「安全運転義務違反」として扱われるため、通常よりも過失が重く判断されます。特に「ナビを見ていただけ」というケースでも、視線を逸らした事実が重要視されます。ここでは、自転車と車の違いや特徴を整理します。
自転車│対歩行者事故では重過失として扱われやすい
自転車でスマホを注視していたことが原因で事故が起きた場合、特に歩行者との接触事故では、自転車側の責任が極めて重くなります。歩行者は交通弱者であるため、「注意義務を怠った」と見なされるのです。
【典型的なケース】
- スマホを見ていて横断歩道の手前で止まれなかった
- 歩行者の横をスマホを見ながら通過し、肩が当たって転倒
- 信号待ちの人に気づかず追突
近年では、歩行者の高齢化も進んでいることから、軽い接触でも大けがにつながり、数千万円規模の賠償責任が生じるケースも報告されています。
車│スマホが関係すると罰則・責任は一気に重くなる
車の運転中のスマホ使用は、道路交通法で明確に禁止されています。そのため、事故が起きた場合は次の3つすべてで責任が問われます。
- 行政処分(反則点数・免許停止など)
- 刑事処分(過失運転致死傷罪など)
- 民事責任(損害賠償)
【特に重くなるポイント】
- “保持していた”“注視していた”だけで加点・罰金
- スマホが原因と判断されれば、過失割合が大幅に増える
- 死亡事故では「危険運転致死傷罪」が適用されることもある
「ナビを見ていただけ」と言っても、法律上は“前方不注意”として扱われ、通常の事故より重い処分になる可能性が高いのが特徴です。
共通するポイントは、「注視していた」が決定的証拠になること
自転車でも車でも、次のような状況が確認されると一気に責任が重くなります。
- ブレーキ跡がない
- 相手が止まっていたのに気づかなかった
- ドライブレコーダーに“画面を見ている様子”が映っていた
- 周囲の証言で「下を向いていた」と判断された
つまり「操作していない」「ナビを見るだけのつもりだった」という本人の意識よりも、走行中に視線を前から外した事実が重く扱われるのです。
5.家庭で話し合いたい「ながらスマホゼロ」の意識と“もしもの備え”
スマホは便利ですが、使い方を誤ると一瞬で事故につながるツールでもあります。特に自転車は子どもや中高生が日常的に使う乗り物。家庭での声かけやルール作りが、安全を守る大きな力になります。
「走行中は絶対にスマホを見ない」を家族の共通ルールに
自転車でも車でも、走行中にスマホを見れば事故リスクが跳ね上がります。だからこそ、家庭ではわかりやすくシンプルなルールが大切です。
- 走りながらスマホに触らない
- ナビの確認は必ず停止してから
- 音声案内を基本として画面を見ない工夫をする
- 車の運転中も“ながらスマホゼロ”を大人が率先して示す
子どもは大人の行動をよく見ています。「お父さん・お母さんも運転中にスマホを見ないんだ」という姿勢そのものが、安全教育になります。
「スマホを安全に使う」という視点を持つ
スマホを持つのが当たり前の時代だからこそ、使わないのではなく、どう使うか、が交通安全の鍵になります。
- 出発前にルート設定を済ませる
- 画面を見なくても案内が聞こえる状態を作る
- 不安な場所は迷わず停車して確認する
“使い方の工夫”は、危険を遠ざけながら便利さも保つ、現代ならではの交通マナーです。
もしもの備えに“自転車保険”は一家にひとつの安心
スマホが原因の自転車事故は、被害状況によっては高額賠償責任になるケースがあります。歩行者が転倒し骨折した、子どもとぶつかったなど、わずかな接触でも大きな損害につながることがあります。
そのため、
- 個人賠償責任補償(1億円以上あると安心)
- 自分自身のケガを補償する傷害特約
といった内容を備えた自転車保険は、家庭の“安心の備え”としておすすめです。

多くの自治体で加入義務化が進んでいることもあり、保険加入は「自転車を使う家庭の常識」になりつつあります。大切なのは、事故を起こさない工夫と、もしもの備えをセットで考えることです。
まとめ
スマホをナビとして使うこと自体は、法律で禁止されているわけではありません。ホルダーに固定し、音声案内を活用する形であれば、自転車でも車でも問題なく使えます。
しかし、ここで忘れてはいけないのは「運転中にスマホ画面を注視した瞬間に違反になる」という点です。
目的がナビであっても、動画であっても、SNSであっても、法律は“画面を見たかどうか”を基準に判断します。つまり、スマホを手に持っていなくても、固定していても、走行中に画面へ視線を向ければ安全運転義務違反(車の場合は即違反)になり得るのです。
だからこそ、スマホナビを安全に使うためには、
- ルート設定は出発前に済ませる
- 音声案内をメインにする
- 画面を確認したいときは必ず停車する
この3つが絶対です。
便利さが当たり前になった今こそ、スマホとの距離感を考え直すことが、安全を守る第一歩です。ナビを見る前に、まず前を向く。その小さな習慣が、自分も周囲も守る大切な行動になります。