自転車は、通勤や通学の手段として多くの人に利用されています。電車やバスに比べて自由度が高く、健康にも良いことから、自転車通勤・通学を選ぶ人は年々増えています。
しかしその一方で、通勤・通学中に自転車事故を起こしてしまった場合、「誰が責任を負うのか」について、正しく理解している人は意外と多くありません。
「通勤中だから会社が対応してくれるのでは?」
「子どもの事故なら、学校の責任になるのでは?」
このような誤解をしたままでいると、いざ事故が起きたときに、思わぬトラブルや高額な賠償問題に発展するおそれがあります。
今回は、通勤・通学中の自転車事故について、本人・親・会社(学校)それぞれの責任の考え方を、ケース別にわかりやすく解説します。
1.通勤・通学中の自転車事故は「よくある」
通勤・通学時間帯は人や車の動きが集中し、自転車事故が起きやすい時間帯でもあります。まずは、実際の事故の傾向と、よくある誤解について見ていきましょう。
1-2.自転車事故は通勤・通学時間帯に多い
朝の通勤・通学時間帯や、夕方の帰宅時間帯は、車・自転車・歩行者が一斉に動きます。そのため、交差点や歩道、住宅街の狭い道路などでは、接触事故や出会い頭の事故が起きやすくなります。
特に多いのが、
- 急いでいて一時停止や信号を見落とす
- 歩行者に気づくのが遅れる
- スマートフォンを見ながら運転してしまう
といったケースです。
「毎日通っている慣れた道だから大丈夫」と思っていても、通勤・通学中は注意力が散漫になりやすく、事故のリスクが高まる時間帯だといえます。
1-2.「通勤中だから会社が責任を取ってくれる」は誤解
自転車通勤をしている人の中には、「通勤中の事故なら、会社が何とかしてくれるのでは」と考えている方も少なくありません。
しかし、この考え方は原則として誤解です。
自転車は、自動車と同じ「車両」に分類されます。そのため、通勤中であっても、自転車を運転していた本人が事故の責任を負うのが基本です。
会社や学校が自動的に責任を負ってくれるわけではなく、状況によっては、本人や家族が高額な損害賠償を請求されることもあります。
2.事故の責任は「誰にある」のか
通勤・通学中であっても、自転車事故の責任の考え方には明確な基本ルールがあります。ここではまず、押さえておきたい原則から整理していきます。
2-1.原則は「運転していた本人」が責任を負う
自転車は、道路交通法上「軽車両」に分類される立派な車両です。そのため、事故を起こした場合の責任は、自転車を運転していた本人にあるのが原則です。
たとえ通勤や通学の途中で、
- 会社や学校の指示で走っていた
- 毎日使っている通学路だった
- 時間に追われていた
といった事情があっても、基本的には本人の責任が免除されることはありません。
自転車事故は「軽い事故」と思われがちですが、歩行者と衝突した場合には、相手に大けがを負わせてしまう可能性もあります。その場合、運転者本人が損害賠償責任を負うことになります。
2-2.自転車事故でも高額賠償になるケース
自転車事故では、数百万円から、場合によっては数千万円規模の賠償命令が出るケースもあります。
特に多いのが、
- 歩行者に衝突し、後遺障害が残った
- 高齢者に重いけがを負わせてしまった
- 被害者が長期間働けなくなった
といったケースです。
こうした場合、治療費だけでなく、慰謝料・休業損害・将来の介護費用なども含めて賠償を求められる可能性があります。
「自転車だから大した金額にはならない」と思っていると、事故後に想像以上の請求を受けてしまうことがあります。
2-3.刑事責任・民事責任・行政責任の違い
自転車事故では、状況によって複数の責任が問われることがあります。
- 刑事責任
信号無視やスマートフォン操作など、重大な違反がある場合、書類送検や罰金の対象になることがあります。 - 民事責任
被害者に対して損害を賠償する責任です。自転車事故で最も問題になりやすいのがこの部分です。 - 行政責任
交通違反に対する指導や講習、今後導入が進むとされる反則金制度(いわゆる青切符)などが該当します。
通勤・通学中の事故であっても、これらの責任が本人に重なる可能性があるという点は、しっかり理解しておく必要があります。
3|.【ケース別】誰が責任を負うのか?
通勤・通学中の自転車事故では、事故を起こした人の立場や年齢によって、責任の所在が変わることがあります。ここでは、よくあるケースごとに見ていきましょう。
3-1.本人が社会人の場合(自転車通勤)
社会人が自転車で通勤中に事故を起こした場合、原則として運転していた本人が責任を負います。
たとえ、
- 会社に通勤手段として届け出ている
- 通勤時間帯・通勤経路だった
- 会社の始業時間に間に合うよう急いでいた
といった事情があっても、通常は会社が賠償責任を負うことはありません。
自転車通勤は、あくまで「私的な移動」と考えられるためです。そのため、相手にけがをさせてしまった場合には、本人が損害賠償を請求されることになります。
3-2.未成年の場合は「親」に責任が及ぶことも
通学中の事故で特に注意が必要なのが、未成年の子どもが自転車事故を起こした場合です。
未成年者は、法律上、十分な責任能力がないと判断されることがあります。その場合、親(保護者)が監督義務者として責任を問われる可能性があります。
実際に、
- 高校生が歩行者に衝突し、重い後遺障害を負わせた
- 親が高額な損害賠償を命じられた
という裁判例もあります。
「子どもが起こした事故だから仕方がない」では済まされず、家庭の責任として問われる可能性がある点は、保護者として知っておくべき重要なポイントです。
3-3.会社や学校が責任を問われるケースとは?
通勤・通学中の自転車事故で、会社や学校が責任を問われるケースは、実はかなり限定的です。
たとえば、
- 業務として外回りや配達を命じていた
- 会社の指示で自転車を使って移動していた
- 学校が危険な運転を把握しながら放置していた
といった特別な事情がある場合には、「使用者責任」や「安全配慮義務」が問題になることがあります。
ただし、単なる通勤・通学中の事故では、会社や学校の責任が認められにくいのが実情です。そのため、「会社があるから安心」「学校があるから大丈夫」と考えるのは危険だといえるでしょう。
4.会社・学校はどこまで責任を負う?
通勤・通学中の自転車事故では、「会社や学校はまったく関係ない」と思われがちですが、状況によっては責任が問われることもあります。ここでは、責任が生じる可能性があるケースと、そうでないケースの違いを整理します。
4-1.「業務中」と「通勤途中」の大きな違い
会社の責任が問われるかどうかを判断するうえで、最も重要なのが、事故が「業務中」なのか、「通勤途中」なのかという点です。
一般的に、自宅から会社までの移動、会社から自宅への帰宅といった通勤時間は、業務には含まれないと考えられています。
そのため、自転車通勤中に起きた事故については、原則として本人の責任となり、会社の責任が問われることは少ないのが実情です。
一方で、勤務時間中に、
- 会社の指示で外出していた
- 営業や配達などの業務で自転車を使用していた
といった場合には、「業務中の事故」として扱われ、会社の責任が問題になることがあります。
4-2.会社が責任を負う可能性がある具体例
次のようなケースでは、会社に「使用者責任」が認められる可能性があります。
- 業務として自転車での移動を命じていた
- 会社が自転車を貸与していた
- 危険な運転を把握していながら、注意や指導をしていなかった
このような場合、事故を起こした本人だけでなく、会社にも一定の責任があると判断されることがあります。
ただし、あくまでも「業務との関係性」が重要であり、通勤手段として自転車を選んだだけでは、会社責任は生じにくい点は押さえておく必要があります。
4-3.通勤届・通学届が影響するケース
自転車通勤や通学では、事前に通勤届・通学届を提出しているケースも多いでしょう。
これらの届け出は、通勤経路の把握・労災保険や学校保険の手続きといった目的で行われるものであり、事故の賠償責任を会社や学校が引き受けることを意味するものではありません。
ただし、
- 危険な通学路を把握していた
- 明らかに無理のある通勤方法を指示していた
といった事情が重なると、責任が問われる余地が出てくることもあります。
とはいえ、通常の通勤・通学中の事故では、本人や保護者の責任が中心になると考えておくのが現実的です。
5.自転車保険に入っていないとどうなる?
通勤・通学中の自転車事故で、最も大きな問題になりやすいのが「お金」の問題です。自転車保険に入っていない場合、事故後の対応は想像以上に大きな負担になることがあります。
5-1.保険未加入で起きやすいトラブル
自転車事故で相手にけがをさせてしまった場合、加害者側は損害賠償を支払う必要があります。しかし、自転車保険に加入していないと、
- 示談交渉を自分で行わなければならない
- 突然、高額な請求書が届く
- どこに相談すればよいかわからない
といったトラブルが起きやすくなります。
特に、相手が歩行者や高齢者だった場合、治療が長引き、賠償額が数百万円以上になることも珍しくありません。
5-2.親・会社・学校が困る現実
未成年の子どもが事故を起こした場合、保護者が賠償の窓口になることが多くなります。その際、自転車保険に入っていないと、親が直接、被害者対応や賠償交渉を行うことになります。また、社会人の場合でも、
- 会社に事故の相談をしても、金銭的な補償は受けられない
- 「個人の問題」として対応を求められる
といったケースがほとんどです。
学校についても、通学中の事故だからといって、賠償金を肩代わりしてくれるわけではありません。結果として、事故の負担がすべて本人や家族にのしかかることになります。
5-3.自治体の自転車保険義務化にも注意
近年、多くの自治体で自転車保険への加入が義務化されています。これは、万が一の事故に備え、被害者を適切に救済することを目的としたものです。
義務化されている地域で未加入だった場合、指導や注意を受ける可能性があり、事故後の立場が不利になる、といった点にも注意が必要です。
自転車保険は、月数百円程度で加入できるものも多く、「入っていなかったために困るリスク」は非常に大きいといえるでしょう。

6.通勤・通学中の事故を防ぐためにできること
通勤・通学中の自転車事故は、「気をつけていれば防げた」というケースも少なくありません。ここでは、本人・家庭・会社や学校、それぞれの立場でできる対策を整理します。
6-1.ルール遵守と安全装備の重要性
事故防止の基本は、やはり交通ルールを守ることです。
- 信号や一時停止を必ず守る
- 歩道では歩行者を最優先にする
- スマートフォンを操作しながら運転しない
こうした基本的なルールを守るだけでも、事故のリスクは大きく下がります。
また、ヘルメットの着用夜間や夕方のライト点灯、反射材の活用などの安全装備も重要です。これらは、自分の身を守るだけでなく、「事故を起こさないための対策」としても効果的です。
6-2.家庭・会社・学校でできる対策
未成年の通学事故については、家庭での声かけが欠かせません。
- 自転車のルールを一緒に確認する
- 危険な通学路を把握する
- 自転車保険に加入しているか確認する
社会人の場合も、自転車通勤をしているのであれば、自分自身でリスク管理をする意識が必要です。会社や学校の側でも、
- 自転車通勤・通学のルールを明確にする
- 安全指導や注意喚起を行う
といった取り組みが、事故防止につながります。
まとめ
通勤・通学中の自転車事故では、「通勤中だから」「通学中だから」といった理由だけで、会社や学校が責任を負ってくれるわけではありません。原則として、
- 事故の責任は運転していた本人にある
- 未成年の場合は、親に責任が及ぶことがある
- 会社や学校の責任が認められるのは限定的
という点を押さえておく必要があります。そして、万が一の事故に備えるうえで、自転車保険への加入は事実上必須といえるでしょう。
通勤・通学で日常的に自転車を利用しているからこそ、事故を「他人事」にせず、正しい知識と備えを持つことが大切です。
通勤・通学中の自転車事故は、誰にでも起こり得る身近な問題です。もし事故やトラブルで不安を感じたときは、早めに相談することで、状況が整理できるケースも少なくありません。
当社では、地域の皆さまからの自転車事故に関するご相談を随時受け付けています。小さな疑問でも構いませんので、お気軽にお声がけください。