犬の散歩をしているとき、自転車に乗りながらリードを持って走っている人を見かけることがあります。
特に運動量の多い犬の場合、「歩くより自転車で走らせたほうがしっかり運動できそう」と考える方もいるかもしれません。
しかし、自転車に乗りながら犬を散歩させると、リードを持つことでハンドル操作が不安定になったり、犬が突然方向を変えて転倒したりする危険があります。犬が歩行者やほかの自転車のほうへ飛び出せば、自分たちだけではなく周囲の人を巻き込む事故につながることもあります。
また、注意したいのは事故の危険性だけではありません。自転車の運転方法については道路交通法によるルールがあり、さらに都道府県の公安委員会規則によって具体的な遵守事項が定められている場合があります。
では、犬のリードを持ちながら自転車を運転することは、交通ルール上問題ないのでしょうか?
1.自転車に乗りながら犬の散歩をしてもいい?
犬のリードを片手に持ち、自転車に乗りながら散歩をしている光景を見かけることがあります。
一見すると「犬を散歩させているだけ」に思えるかもしれませんが、自転車は道路交通法上の「軽車両」です。自転車を運転する以上、道路交通法や地域ごとに定められた交通ルールを守る必要があります。
1-1.道路交通法に「犬の散歩は禁止」と直接書かれているわけではない
まず押さえておきたいのは、道路交通法に全国一律で「自転車に乗りながら犬を散歩させてはならない」という文言がそのまま設けられているわけではない、という点です。
だからといって、リードを持ちながら自由に自転車を運転してよいという意味でもありません。
道路交通法では、道路や交通の状況に応じて、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転することが求められています。また、自転車の具体的な運転方法については、都道府県公安委員会の規則によって遵守事項が定められています。
そのため、犬を散歩させていること自体だけではなく、「リードを持った状態で安全に自転車を操作できるのか」が重要なポイントになります。
1-2.片手運転など安全な運転ができない状態は問題になる
犬のリードを片手で持てば、基本的にはもう片方の手だけでハンドルを操作することになります。
犬が突然止まったり、横方向へ走ったりすれば、リードを持つ手が引っ張られて自転車のバランスを崩すことも考えられます。
実際に警視庁は、自転車に乗ったままリードを持って犬を散歩させる行為について、東京都道路交通規則に抵触し、違反になると案内しています。同規則では、物を持つなどして視野を妨げたり、安定を失うおそれのある方法で自転車を運転しないことが定められており、警視庁は犬に引っ張られて操作上の安定を失うことなどを理由として挙げています。
したがって、「片手でも普通に運転できるから大丈夫」と考えるのは避けたほうがよいでしょう。
1-3.都道府県の公安委員会規則にも注意
自転車の運転については、道路交通法だけを確認すればよいわけではありません。
道路交通法第71条では、運転者が守るべき事項について、都道府県公安委員会が道路の安全のために必要な事項を定める仕組みがあります。
例えば神奈川県警察は、傘を差したり物を持ったりするなどの片手運転を禁止事項として案内しており、道路交通法第71条第6号と神奈川県道路交通法施行細則を根拠として示しています。
このように、具体的な規定は地域によって異なる場合があります。
そのため、「犬のリードを持ちながら自転車に乗っても全国どこでも問題ない」と考えることはできません。地域の交通規則を確認するとともに、犬を連れた状態で安定した運転ができないような乗り方は避けることが大切です。
2.自転車で犬を散歩させるのが危険な理由
自転車に乗りながら犬を散歩させると、自転車の操作と犬のコントロールを同時に行わなければなりません。
犬は人間の思いどおりに動くとは限らず、突然立ち止まったり、ほかの犬や人に反応して方向を変えたりすることがあります。その瞬間にリードが強く引っ張られれば、自転車のバランスを崩して転倒するおそれがあります。
また、長く伸びたリードが歩行者やほかの自転車の進路に入り、接触や転倒につながる可能性もあります。犬が車道側へ飛び出せば、車を巻き込んだ事故に発展することも考えられるでしょう。
特に注意したいのは、普段はおとなしい犬でも、散歩中にどのような動きをするか完全には予測できないことです。
「いつも自転車で散歩しているから大丈夫」「うちの犬は急に走り出さない」と過信せず、自転車に乗りながら犬を散歩させることには、通常の自転車走行とは異なる危険があることを理解しておきましょう。
3.犬が飛び出して事故になったら誰の責任?
自転車で犬を散歩させている最中、犬が突然車道へ飛び出したり、歩行者の前に出たりすれば、事故につながる可能性があります。
このとき、「犬が勝手に動いたから仕方がない」とは限りません。犬を適切に管理できていたかどうかなどによって、飼い主の損害賠償責任が問題になることがあります。
3-1.犬が原因でも飼い主の責任が問題になることがある
民法第718条では、動物の占有者は、その動物が他人に与えた損害について、動物の種類や性質に応じた相当の注意をもって管理していた場合を除き、損害を賠償する責任を負うと定められています。
実際の裁判でも、犬の飼い主には、犬が予想外の行動をする可能性も考慮して適切に管理することが求められると判断された例があります。
自転車で散歩していたケースでも、犬の動きやリードの扱い方、飼い主がどの程度犬をコントロールできる状態だったのかなど、事故当時の具体的な状況が重要になります。
3-2.歩行者を転倒させた場合
犬が歩行者に直接ぶつかった場合だけが事故ではありません。
例えば、犬が突然歩行者の前へ飛び出し、それを避けようとした歩行者が転倒してケガをすることも考えられます。
実際に、散歩中に飼い主の手からリードが離れ、犬が現れたことでランニング中の人が転倒した事故について、犬の占有者に民法第718条に基づく損害賠償責任が認められた裁判例もあります。
つまり、犬が相手の身体に直接接触していなくても、犬の行動が原因となって事故が発生すれば、飼い主の責任が問題になる可能性があります。
ケガの程度によっては、治療費だけでなく、休業による損害や慰謝料などが損害賠償の対象になることもあります。
3-3.車やほかの自転車と事故になった場合
犬が急に車道へ飛び出したことで、走行してきた車が急ブレーキをかけたり、ほかの自転車が避けようとして転倒したりするケースも考えられます。
また、自転車に乗っている飼い主自身がリードに引っ張られ、別の自転車や車、歩行者に衝突してしまう可能性もあります。
こうした事故では、犬の管理状況だけでなく、自転車や車の走行状況なども含めて責任が判断されることになります。そのため、「犬が飛び出したから飼い主が必ず100%責任を負う」と一律に決まるわけではありません。
ただ、自転車に乗りながら犬を散歩させることは、犬の動きを制御しながら自転車そのものも操作しなければならない乗り方です。万が一事故になれば、交通ルールの問題だけでなく、相手への損害賠償まで問題になる可能性があることを覚えておきましょう。
4.リードを自転車に固定すれば大丈夫?
「リードを手で持つから片手運転になるなら、自転車に固定すればいいのでは?」と考える方もいるかもしれません。
しかし、リードを自転車に固定したからといって、安全に犬を散歩させられるとは限りません。むしろ、犬の動きがそのまま自転車に伝わることで、転倒につながる危険もあります。
4-1.手で持たなければ安全とは限らない
リードを自転車に固定すれば、両手でハンドルを握ることはできます。ただし、それだけで安全な運転ができるとはいえません。
例えば、犬が突然横方向へ走り出した場合、リードを通して自転車が強く引っ張られる可能性があります。手に持っている場合とは違い、とっさにリードを離すこともできません。
また、リードがタイヤやペダルなどに絡まれば、急に自転車が止まって転倒する危険もあります。
「両手でハンドルを握っている=安全」というわけではなく、犬を含めて自転車を安定して操作できる状態かどうかが重要です。
4-2.専用器具を使っても交通ルールとは別問題
自転車と犬をつなぐための専用器具などもありますが、器具を使用しているからといって、公道での走行が必ず交通ルール上問題なくなるわけではありません。
自転車を運転するときには、道路交通法上の安全運転義務に加えて、各都道府県の公安委員会規則などを守る必要があります。
そのため、「専用の商品だから公道でも問題ない」「リードを固定すれば片手運転ではないから大丈夫」と判断するのは避けましょう。
自転車で犬を連れて走る場合は、器具の有無だけで安全性や適法性を判断せず、地域の交通ルールや実際の運転状況まで考える必要があります。
5.犬との散歩中に事故を起こした場合、保険は使える?
自転車で犬を散歩させている最中に事故が起き、歩行者にケガをさせたり、車などを傷つけたりした場合、高額な損害賠償につながる可能性もあります。
では、このような事故が起きたとき、自転車保険を利用することはできるのでしょうか。
5-1.相手にケガをさせた場合は損害賠償が発生することも
例えば、犬が突然歩行者の前に飛び出し、相手が転倒してケガをしたとします。
事故の状況によって飼い主に法律上の損害賠償責任が認められれば、治療費や慰謝料などの支払いが必要になる可能性があります。
また、犬が車道へ飛び出したことをきっかけに車やほかの自転車が事故を起こした場合なども、損害賠償が問題になることがあります。
「犬が直接ぶつかっていないから責任はない」とは限らないため、犬を連れて外出するときには周囲への十分な注意が必要です。
5-2.自転車保険で必ず補償されるとは限らない
ここで注意したいのが、自転車保険に加入していれば、犬が原因となった事故も必ず補償されるわけではないという点です。
自転車保険には、一般的に自転車事故などで他人にケガをさせたり、他人の物を壊したりして法律上の損害賠償責任を負った場合に備える補償があります。
ただし、今回のようなケースでは、自転車の運転中に起きた事故なのか、犬の管理に起因する事故なのかなど、具体的な状況によって保険上の取り扱いが変わる可能性があります。
さらに、補償の対象となる事故や免責事項、補償限度額なども契約によって異なります。
そのため、事故が起きた場合には「自転車保険に入っているから大丈夫」と自己判断せず、加入している保険会社や代理店へ事故の状況を伝えて確認することが大切です。
5-3.事故が起きる前に補償内容を確認しておこう
保険は、事故が起きてから加入しても、その事故にさかのぼって補償を受けることはできません。
普段から犬の散歩をする方は、自分が加入している保険について、どのような場合に相手への損害賠償が補償されるのか確認しておくと安心です。
特に確認しておきたいのは、自転車事故だけでなく、日常生活の中で他人にケガをさせたり、他人の物を壊したりした場合の損害賠償が補償の対象になっているかという点です。
商品によって補償内容は異なるため、分からない場合は保険会社や代理店に確認しておきましょう。
万が一事故が起きてしまった場合には、まず負傷者の救護など必要な対応を行い、そのうえで警察や保険会社へ連絡することが大切です。

まとめ|自転車に乗りながらの犬の散歩は避けよう
自転車に乗りながら犬を散歩させる行為は、犬の動きをコントロールしながら自転車も操作しなければならないため、思わぬ事故につながる危険があります。
道路交通法に「自転車で犬を散歩させてはいけない」とそのまま書かれているわけではありませんが、自転車には安全な方法で運転することが求められます。また、地域によっては公安委員会規則などにより、安定を失うおそれのある運転方法が禁止されています。
「片手でも運転できるから大丈夫」「リードを自転車に固定すれば問題ない」と考えるのは避けましょう。
犬が突然飛び出したことで歩行者が転倒したり、ほかの自転車や車を巻き込んだりすれば、飼い主の損害賠償責任が問題になる可能性もあります。犬が相手に直接ぶつかっていなくても、事故の原因となれば責任が生じるケースがあるため注意が必要です。
また、事故による損害賠償について保険を利用できるかどうかは、事故の状況や契約内容によって異なります。自転車保険に加入している方も、「犬が原因の事故まで補償される」と決めつけず、どのような事故が補償対象になっているのか確認しておくとよいでしょう。
犬との散歩では、交通ルールだけでなく、犬・飼い主・周囲の人が安全に行動できる方法を選ぶことが大切です。
当社では、自転車保険に関するご相談も受け付けています。「どのような事故が補償される?」「今の補償内容で大丈夫?」など、気になることがありましたらお気軽にご相談ください。